ご存知の方も多いかもしれませんが、
ヨーロッパと万年筆のかかわりはとても深いものがあります。
ヨーロッパの多くの国では、小学校のときから万年筆を授業に使います。
その関係で、大人になってからのユーザー数の割合は統計が出ていませんが、
日本よりは万年筆ユーザー割合が多いだろうと考えられています。
ヨーロッパでの万年筆の立ち位置
アメリカやイギリスで生まれて進化してきた万年筆。
やはり、西洋での文化が発達しています。
イタリアでもユーザーが多いのは同様で、多くの親たちは
子どもが進級したり、就職する際に万年筆をプレゼントするとのこと。
クリスマスプレゼントにも万年筆はポピュラーだそうです。
最初驚いたのですが、
クリスマスの時期になると
町の万年筆屋さんの前には人だかりができるほど
プレゼントに求める人が多いのだとか。
もちろんコロナ禍以前の話なので
いまはオンラインで買う方も多いとは思いますが…。
日本でも昔は就職祝いに万年筆、というのは定番だったと聞いていますが
ボールペンと電子メール、携帯電話の普及の波に押されて万年筆ユーザーが少なくなっていきました。
ヨーロッパでももちろん、打撃は受けたはずなのですが
なぜあまり廃れなかったのでしょうか。
わたしの推察ですが、理由の一つには、もともと筆文化だった日本と、
つけペン文化が根付いていたヨーロッパの違いにあるかと思います。
つけペン文化から発明された万年筆に自然に移行したヨーロッパでは、
現代でも小学校で万年筆を使うわけで
自然と「大人になったら良い万年筆を」となるわけです。
が、筆から突然まったく違うつけペンや万年筆の文化を明治時代に受け入れた日本では
万年筆は一般市民の意識下では「近代化のしるし」「贅沢品」のままであり、
「必ず持つべきもの」という文化にはならなかったのでしょう。
(筆と硯は、学校で必ず買いますが…)
(余談ですが、こんな「万年毛筆」なるものも日本には存在します。
最近、若い子が万年毛筆を使っているのを見て、「そ、そっちか~い!」と驚きました。
でも、日本文化の保存という観点から見ても万年毛筆はとても良いですよね。)
先ほど書いたように、一度は廃れるかのように見えた万年筆。
ヨーロッパでは、いくら万年筆を小学校で使うと言っても、
やはり生産数は下がっていたようです。
しかし!2000年代に日本でもヨーロッパでも同様に(つまり世界中で)
万年筆のリバイバルが起きました。
手書きっていいよね!万年筆ってかっこいいよね!というリバイバルです。
そしてリバイバル以降は特に、
万年筆は書く道具という実用的な使い方以外に、
ファッションとしての意味合いを強くしました。
1000円~3000円台のカジュアル万年筆が増えたり、
女性向けのかわいい/綺麗な万年筆が登場したり。
万年筆はより身近なものとして、リバイバルを遂げたのです。
コロナ禍での万年筆の立ち位置
日本でも世界でも、コロナ禍にはいってすぐ、万年筆ブームが起こりました。
「おうち時間」のニーズの急増で、
「自分の人生を振り返りたい」という方や
「書写を楽しみたい」という方が全世界的に増えたのです。
また、外に出られなくなって、ネットフリックスやネットサーフィンにも飽きた…という人々が
「身体的感覚」を求めて、より五感を刺激される体験を、ということで万年筆に興味を持った、ということもあると思います。
万年筆は、コロナ禍での人々の癒しの存在となっていたのですね。
しかし日本においては、実は2020年は万年筆プチブームがあったのですが、
2021年、2022年は興味が少し薄れたようです。(Googleトレンドからの仮説)
しかしながらヨーロッパでは2023年になっても万年筆ブームは衰えることなく、むしろ2000年代前半の人気を取り戻しつつあります。
これも、もともと万年筆を使う土壌がヨーロッパ文化圏にあったから、と考えるのが自然です。
日本では、万年筆ブームからのインクブームはそのまま定着し、ガラスペンなどがかなりの地位に立っているように思えます。
(これもGoogleトレンドから。)
日本では円安の影響で万年筆もかなりの値上げがありましたので、いったん万年筆よりは安価で
いろいろなインクが試せるガラスペンに興味が移っているのか、どうなのか。
ただ、持ち歩きができて丈夫で、独特の筆記感が楽しめる万年筆は、次の100年も残っていくのではないかな~と思っています。
万年筆は個体差という揺らぎがあり、
握り方や角度、筆圧によってひとりひとり使い心地が違うという
他の文具とは比較できないほどにユニークな、とても変わったパーソナルな道具です。
「大人になったら、1本持っておくと良いよね」
という時代が日本にも来たらいいなと夢見ています。
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